糸-ito-

マル勝髙田商店が伝えたい、そうめんのこと、私たちのこと

2022.7.29

お中元にそうめんが「ふさわしい」理由

お中元にそうめんが「ふさわしい」理由

日本では、夏には「お中元」、年の瀬は「お歳暮」として、日頃お世話になっている方へ感謝の気持ちをお贈りする習わしがあります。
夏に百貨店のお中元コーナーに行くと、定番の「そうめん」がずらりと並んでいます。
贈答用の綺麗なパッケージにすだれや風鈴のイラストが添えられているのもよく見かけますが、お中元とそうめんには「夏の涼味」以上の関わりがあるのをご存じでしょうか。
もともとがお祭りである中元と、お供え物としてのそうめん。その関係を、歴史をひもときながらご紹介します。

お中元の由来と歴史

“感謝”を贈り物で伝えるのはいかにも日本人らしい和の心。ですが、そのルーツは中国にあることをご存じでしょうか。

お中元の「中元」とは、中国の「道教」の三元が由来です。
道教では三官大帝と言って、天官・地官・水官の三名の大帝への信仰があります。それぞれの帝の誕生日にあたる上元(1月15日) 、中元(7月15日) 、下元(10月15日)の日を道教では人間贖罪の日として、盛大なお祭りをしたそうです。
中でも中元にあたる地官は地獄の神様で、この日には「地獄の亡者が現世にやってくる」ため、悪さをしないよう祈ったことが元来、中元という行事でした。
この信仰が海を越えて日本に伝わると、「“祖先の霊“が現世にやってくる」日として独自に発展していくことに。これが、ご先祖様をお迎えして供養する「盂蘭盆会(お盆)」のはじまりと言われています。

室町時代になると、公家が盂蘭盆会を行うため旧暦7月15日に供物を送り合う「盆礼」が始まります。
この習わしがやがて庶民の間にも広がり、7月初めからお盆の時期、お世話になった方へ贈り物をするようになったといわれています。

贈り物はご霊前の「お供え物」

日本では旧来、お盆にお墓やお仏壇を清めてご先祖様の供養をする慣習がありますよね。
会社なども休みに入るため、親戚や家族が集まってお墓参りをしたり、お仏壇にお供えものをするご家庭も多いでしょう。
お仏壇にはこの時期、盆棚や盆提灯を飾り、そこに故人やご先祖様の生前の好物や縁起のよいものをお供えします。盆棚にはしばしばそうめんをお供えしますが、これにはきちんと理由があるのです。(もちろん、ご先祖様の大好物という場合も十分ありますが)

お供え物としてのそうめんは、「手綱」と「荷紐」に見立てられたという説が民俗資料に残っています。

先ずは「手綱」説。
これは、お盆を終えてご先祖様があの世へ帰る際に乗る馬の手綱のこと。
皆さんご存知の通り、お盆の飾りと言えばキュウリやナスで作る「精霊馬(しょうりょううま)」。その馬を引く手綱として、そうめんをお供えするようになったのだとか。

もうひとつが「荷紐」説。
お仏壇を見ると、そこにはご先祖様へのお供え物がたくさん。あの世へ帰るご先祖様は、お盆の間に供えられた、数々のお供物を持ってあの世へ帰らねばなりません。そんなご先祖様が、荷物を落とさないで帰れるよう荷紐としてそうめんがあてがわれたという説もあるそうです。
どちらもほっこりする言い伝えですよね。

また、かつて日本では夏に麦の収穫祭が行われていました。
そうめんは細くて長い糸のようにも見えることから「喜びや幸福が続く」縁起がよいものとされ、収穫祭のお供えにしたそうです。
時期が近いことから、お盆のお供え物にもなっていったのでは、という説もはたまたあるようですよ。

日本人の“和の心”

歴史を辿りながら、そうめんがお中元の贈り物に選ばれる理由を探ってきました。
中国伝来の「祟り信仰」は、いつしか、ご先祖様や周囲の人々への感謝の想いを表す日本独自の文化として発展し、継承されてきました。

そうめんを贈るもう一つの意味、それは、そうめんのように「細くとも長いお付き合いを」という願いを暗に伝えられるからかもしれません。
言葉以外の方法で相手に気持ちを伝える、なんとも奥ゆかしい和の心ではないでしょうか。
今年はぜひ、大切な方へ手延べそうめんを贈ってみてはいかがでしょう。